『個人的趣味趣向!』
これほど心を奪われる作品があっただろうか。カタルシスの力である。
理想の女性、理想のシュチュエーションを本来はテーマとするはずの
美少女ゲームというレッテルの中で、
ある意味逆説的である作品を送り出していくkeyというゲーム会社は、
人間の存在感と死をきちんと表現し、リアリティのある人間の悲劇として昇華していく。
あの「どうしようもない感」、主人公が悲劇的な立場に自分がいると実感したときの「どうすることもできない感」は
ゲーム画面の枠を飛び越えて、やり終わった後「あっちの世界から抜け出せなくなってしまう」と錯覚させるほどの衝撃がある。
今回のテーマのひとつである「熱」はキャラクター同士の「縁」から発生していく。
これは俗にいう「モチベーション」である。
ゲームの物語の仕組みが、やる気のなくなっている主人公の実存でスタートし、
クリアするごとに光の玉を取り戻し、やる気を「取り戻した」という形式になっていることにもおもしろさを感じる。
主人公は高校生でちょっと不良で、過去にトラウマがあり切実であるから、
ハリウッドみたいにスーパーマンになるわけではないけど、
プレイし終わったあと私自身の生き方にも、少なからず「熱」が発生したことは真実だと思う。
さらには、主人公たちが彼氏彼女の関係で終わることはなく、「家族」の構造が受け継がれていくさままできちんと描かれているのも、ゲームの枠を飛び越えて見事だった。
とても心が洗われる一作。